スシロー「醤油ペロペロ事件」から学ぶ、迷惑動画のリスクと企業の備え|カスハラ対策の義務化とあわせて解説

企業のリスク対策 迷惑動画1本が企業を揺るがす スシロー事件から学ぶ5つの備え

2023年1月、回転寿司チェーン「スシロー」の店舗で、客がしょうゆボトルの注ぎ口や湯呑みをなめるなどした動画がSNSで拡散しました。いわゆる「醤油ペロペロ事件」として広く報じられた事案です。

その影響は、一店舗にとどまりませんでした。全国の店舗で衛生面への不安が広がり、運営会社は警察への被害届の提出、損害賠償請求、店舗の設備や運用の見直しなど、全社を挙げた対応に追われることになりました。

この記事では、運営会社の公式発表と報道をもとに事件の経緯を整理し、飲食店に限らず、お客様と接するすべての企業が学べるリスク対策をまとめます。2026年10月1日から義務化されるカスタマーハラスメント対策との関係もあわせて解説します。

この記事のポイント

  • 一人の客の迷惑行為を撮影した動画が、全国の店舗の信用に関わる事態に発展しました
  • 運営会社は、1月30日に公式発表を出し、被害届の提出、衛生対応、再発防止策を短期間で打ち出しました
  • 企業に必要なのは、「起きる前提」の設備と運用、初動の手順、毅然とした方針、そして矢面に立つ従業員を守る仕組みです
目次

1. 何があったのか

運営会社である株式会社あきんどスシローの公式発表と報道をもとに、主な経緯を整理します。

  • 2023年1月下旬:岐阜県内の店舗で、客がしょうゆボトルの注ぎ口や湯呑みをなめるなどした動画がSNSで拡散(行為の内容は報道による)
  • 1月30日:運営会社が、動画がSNS上に掲載されていることを確認したと公表。全店での調査と、警察に相談しながら刑事・民事の両面から厳正に対処する方針を表明
  • 1月30日(開店前):対象店舗のすべての湯呑みを洗浄し、しょうゆボトルを入れ替え
  • 1月31日:警察に被害届を提出
  • 2月1日:全店を対象とした、卓上の食器や調味料を希望に応じて交換する対応を発表。あわせて、対象店舗と近隣店舗では食器や調味料をお客様自身で席に運ぶ方式に変更すること、客席とレーンの間へのアクリル板の設置を全国の郊外型店舗で順次進めることを発表
  • 2月10日:一連の事案の関係者に対して、直接的な危害となるような言動を控えるよう呼びかけ
  • 2023年3月:行為者に約6,700万円の損害賠償を求めて提訴(報道による)
  • 2023年7月31日:調停が成立し、訴えを取り下げ(報道による)

報道では、動画の拡散後の客足の落ち込みや、親会社の時価総額が短期間で160億円以上減少したことが伝えられました。これらがすべて一人の行為によるものと確定したわけではありませんが、一店舗での出来事が全国の店舗、そして企業全体の問題として受け止められたことがわかります。

なお、同じ時期には他の飲食チェーンでも同様の迷惑行為の動画が相次いで投稿され、社会問題として大きく報じられました。特定の企業だけの問題ではなく、お客様と接するすべての業種に起こり得るリスクだといえます。

2. 運営会社の対応から見えること

本社の会議室で責任者たちが緊急の対応を協議している様子

公式発表を時系列で見ると、運営会社の対応には、他の企業にも参考になる点がいくつもあります。

  • 初動が早い:1月30日に公式発表を出し、対象店舗では同じ日の開店前に衛生対応を実施しています
  • 影響範囲を全店で確認している:一店舗の問題として片付けず、全店で同様の事象が起きていないかを調べています
  • 方針が明確:刑事・民事の両面から厳正に対処することを最初から公表し、実際に被害届の提出と損害賠償請求に進んでいます
  • お客様の不安に具体策で応えている:食器や調味料の交換、アクリル板の設置など、目に見える対策を示しています
  • 過剰な反応にも配慮している:関係者への私的な制裁ともいえる言動を控えるよう呼びかけ、騒動の二次被害を防ごうとしています

3. この事件から学べる、企業のリスク対策

開店前の店舗で店長がスタッフに対応手順を説明している様子

対策1:「起きる前提」で設備と運用を見直す

迷惑行為は、マナーの呼びかけだけでは防ぎきれません。お客様が自由に触れられる備品、スタッフの目が届きにくい席や時間帯など、自社の現場で「やろうと思えばできてしまう」場所を洗い出し、物理的な対策や運用の変更を検討します。

  • 共用の備品を、必要な人にだけ渡す方式や個包装に切り替える
  • スタッフの目が届きにくい場所の見回りや、防犯カメラの設置位置を見直す
  • 「迷惑行為には法的措置をとる」ことを店内掲示などで伝え、抑止につなげる

対策2:発覚したときの初動手順を決めておく

動画がSNSで拡散してからでは、手順を考えている時間はありません。誰が最初に報告を受け、誰が判断し、誰が公表文を出すのか。事実確認、衛生や安全の確保、警察への相談、公式発表までの流れを、あらかじめ決めておきます。

  • 現場から本部への報告ルートと、夜間・休日の連絡先
  • 公表の判断者と、公式発表のひな形
  • 警察や顧問弁護士への相談の窓口

対策3:記録と証拠を残す

法的措置をとるにも、再発防止策を考えるにも、正確な記録が欠かせません。SNSの投稿は削除されることがあるため、発見した時点で画面を保存し、日時や店舗、対応の経過を記録しておきます。防犯カメラの映像の保存期間も確認しておきましょう。

対策4:毅然とした方針を、事前に示しておく

この事件では、運営会社が刑事・民事の両面から対処する方針を早い段階で示し、実際に損害賠償請求まで進めました。その結果について報道では、同様の行為への抑止につながるとの見方も伝えられました。悪質な行為にどう対処するのかを事前に決めて社内外に示しておくことは、それ自体が抑止力になります。

対策5:矢面に立つ従業員を守る

騒動が起きると、問い合わせや苦情、ときには心ない言葉が、店舗の電話や店頭に集中することがあります。対応するのは、その場にいる従業員です。

  • 問い合わせへの回答の範囲と、本部につなぐ基準を決めておく
  • 電話や対面での対応が長引いた場合に、対応を終えてよい基準を決めておく
  • 対応した従業員が相談できる窓口を用意し、心身の負担に気を配る

4. カスハラ対策の義務化とどう関係するのか

2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法により、すべての事業主にカスタマーハラスメント対策が義務付けられます。

法律上のカスハラは、顧客等の言動が社会通念上許容される範囲を超え、それによって労働者の就業環境が害されるものをいいます。今回のような店の備品への迷惑行為は、主に店舗や商品、企業の信用への被害であり、そのままカスハラに当たるかどうかは個別の判断になります。

ただし、企業に求められる備えは大きく重なります。厚生労働省の指針が事業主に求める措置には、次のようなものが含まれています。

  • 対処の内容をあらかじめ定めて従業員に周知すること(犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、本社・本部へ情報共有して指示を仰ぐ など)
  • 特に悪質なものへの対処の方針をあらかじめ定め、実行できる体制を整えること(警告文の発出、出入り禁止 など)
  • 相談窓口を設け、事後に事実関係を確認し、被害を受けた従業員に配慮すること

また、指針では、SNSなどインターネット上の言動も、先ほどの要件を満たす場合にはカスハラに含まれるとされています。騒動のあとに従業員へ向けられる暴言や執拗な問い合わせ、SNSでの中傷は、カスハラ対策で備えるべき典型的な場面です。該当するか判断が難しい段階でも、従業員からの相談には広く対応することが求められています。迷惑行為への備えとカスハラ対策は、「現場で働く人と企業を守る仕組み」として一体で整えるのが効率的です。

5. 自社で確認したいチェックリスト

  • お客様が自由に触れられる備品や場所を把握し、対策を検討しているか
  • 迷惑行為やSNSでの拡散が起きたときの報告ルートと判断者が決まっているか
  • 公式発表のひな形と、警察・弁護士への相談窓口があるか
  • SNS投稿や映像を記録・保存する手順があるか
  • 悪質な行為への対処方針(警告、出入り禁止、法的措置など)を決め、従業員に周知しているか
  • 騒動時に矢面に立つ従業員を守るための対応基準と相談窓口があるか

カスハラ対策の義務の内容については、厚生労働省の一次情報をもとに解説した記事もあわせてご覧ください。

【2026年10月1日施行】カスタマーハラスメント対策が全事業主の義務に|企業が講ずべき10の措置をわかりやすく解説

従業員研修から始める、カスハラ対策

一般社団法人日本人材育成支援機構では、措置義務のうち「方針の明確化と周知・啓発」をサポートする「カスタマーハラスメント対策パッケージ」をご提供しています。全従業員向けのe-learning動画研修、現場での初期対応の流れを整理した対応マニュアル、基本方針・社内周知文のひな形をセットでご用意しています。

相談体制の整備や事後対応、悪質な行為への対処方針などは、各社でのご対応が必要です。パッケージがカバーする範囲も含めて、詳しくは下記のページをご覧ください。

参考にした情報

本記事は、運営会社の公式発表と報道にもとづき、企業のリスク対策を考えるための一般的な解説としてまとめたものです(2026年9月30日時点)。特定の企業や個人を批判する意図はありません。個別の事案への対応については、警察や顧問弁護士、社会保険労務士等にご相談ください。

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